動物愛護法改正案が公布。8週齢規制、虐待厳罰化などが盛り込まれ一歩前進!どう変わる?施行は?
6月11日に参議院で可決された動物愛護法改正案が6月19日、公布されました。
議案情報:動物の愛護及び管理に関する法律等の一部を改正する法律案(参議院)
この日、杉本彩さん率いる公益財団法人動物環境・福祉協会Evaは「動愛法改正のふりかえりと今後の課題」と題してシンポジウムを開催。当スタッフも参加し、改正内容や今後の課題などを聞いてきました。
目次
犬猫の命を守る第一歩!悲願の法改正が成立
成立時、「マイクロチップ義務化」と「日本犬の8週齢除外」「虐待厳罰化」ばかりが報じられていた動物愛護法改正。「業者の規制とかは持ち越しなの?」と疑問に思っていましたが、当シンポジウムで犬猫の命を守る第一歩といえる事項が多々盛り込まれていることがわかりました。
Eva代表の杉本彩さんは動物愛護法改正PT(以後、改正PT)のアドバイザーとして、改正PT議員のみなさんとともに5年前から奔走。この日の挨拶では次のように喜びを述べていました。
「私たちにとって悲願の法改正だったと思います。もちろん理想の形100%に着地したわけではありません。が、大きく第一歩を踏み出すために、現実的に考えなければならないのが議員立法なんだな、ということが本当によく分かりました。これだけいろいろなことが改正されたのは奇跡的。改正して終わりじゃなく、これからこの法律がきちんと正しく機能していくために私たちの注視が必要です」
この後、改正PT高井たかし衆議(立憲)からの「法改正条文の説明」、動物愛護法改正PT主要メンバーの福島みずほ参議(社民)、生方幸夫 衆議(立憲)や、太田匡彦記者(朝日新聞)、佐藤光子弁護士が参加した「パネルディカッション」へ。以上を参考におもな改正内容をご案内します。
生後56日(8週齢)を経過しない犬猫の販売等を禁止:2年内に施行
まずは前回の改正で決まっていながらも附則の「生後49日」となっていた仔犬仔猫の販売から。改正後は、生後56日(8週齢)経過しない犬猫の販売が禁止されます。販売のための引っ越しや展示にもこの8週齢が適用されます。
8週齢の重要性
残念ながら、天然記念物に指定された日本犬6種(柴犬・秋田犬・甲斐犬・四国犬・北海道犬・紀州犬)を適用外とする特例がつきました。この特例は、秋田犬保存会の遠藤敬会長(衆議 維新)と日本犬保存会の岸信夫会長(衆議 自民)が「日本犬は親離れが早く独立心が強い」と強固に8週齢規制に反対したためです。
私たち一般飼い主をはじめ、今改正のために何年も各党に働きかけ議論してきた改正PTのメンバーと杉本さんからすると、まさに"寝耳に水"でした。そして、TOKYO ZEROによる「日本犬6種の除外に反対する署名」には多くの人が賛同しました(当スタッフも署名しました)。
日本犬は親離れが早い?
太田記者(朝日新聞)の調査によると、2007年に関東近県29自治体の「犬の引取申請書」を集計したところ、保健所などに持ち込まれた純血種の犬4253頭のうち952頭、約22%が日本犬だった(内訳:柴犬701頭、秋田犬121頭、甲斐犬35頭、紀州犬63頭、北海道犬17頭、四国犬15頭)。これは少ないと言えないのではないか。また、柴犬は攻撃性が高い個体が多いと注意を促す専門家もいる。
その後の改正PTメンバーや杉本さんらの交渉により、日本犬6種の仔犬もペットショップでは8週齢から、特例は「犬の繁殖を行う犬猫等販売業者が犬猫等販売業者以外に犬を販売する場合」で着地。この特例、みなさんで注視し変えていく必要がありそうです。
繁殖業者・販売業者の遵守基準を具体的に明示:2年内に施行
第一種動物取扱業者(繁殖・販売業者)に具体的な遵守基準が設けられます。遵守基準とは、繁殖・販売を行う場所の広さや従業員数、繁殖回数といった具体的な数値となります。環境省が約1年内に動物の愛護と適正な飼養の観点から具体的な遵守基準数値を提示し、施行までに整えていきます。施行後は違反業者の取り締まりが効率的に行えるようになります。
環境省が設ける第一動物取扱業の遵守基準
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施設の構造・規模・管理
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飼養または保管をする環境の管理
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飼養または保管に従事する従業者の員数
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疾病等に係る措置
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展示・輸送方法
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繁殖動物の選定、繁殖方法・回数等
犬猫の販売場所を事業所に限定:1年内に施行
第一種動物取扱業者が動物の販売を行う際は、動物の状態を直接見せ、対面による情報提供を行う義務があります。当該行為を行う場所を「その事業所に限定すること」が加わります。これまで問題視されていたインターネットの犬猫販売が禁止されることになります。
勧告に従わない業者の公表、勧告・命令の期限:1年内に施行
各都道府県の知事の勧告に従わない動物取扱業者を公表できる制度が設けられます。また、勧告および命令は3か月以内の期限を設けて行います。
動物虐待を行った者への厳罰強化:1年内に施行
現行の愛護動物の殺傷に対する罪の法定刑「2年以下の懲役または200万円以下の罰金」を「5年以下の懲役または500万円以下の罰金」に引き上げられます。虐待・遺棄には、現行は罰金100万円のみが、懲役1年と罰金100万円になります。
また、動物虐待の例示として「みだりに、その身体に外傷が生じるおそれのある暴行を加え、またはおそれのある行為をさせること」および「みだりに、飼養密度が著しく適正を欠いた状態で愛護を動物を飼養し、もしくは保管することにより衰弱させること」と、より具体的になり過密飼養が動物虐待に当たることが明記されます。
マイクロチップ装着の義務化:3年内に施行
犬猫等販売業者は、犬や猫を取得した日から30日経過するまで(それまでに譲渡しする場合は譲渡しの日)にマイクロチップを装着しなければならなくなります。
この目的は犬猫の繁殖・販売におけるトレーサビリティ(追跡可能性)の確保することで、仔犬仔猫を守ること。犬猫のトレーサビリティとは、親犬と血統、繁殖した人、生まれた場所(繁殖場)、ワクチン接種などの履歴が追跡でわかるようにすることです。すでに飼い主と暮らしている犬猫には「努力義務」になります。
- 血統書や誕生日の間違い・偽装にどう対応するか
- 識別番号と個体が一致しない(登録時の間違い)
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チップが体外に出てしまう(挿入穴がふさがるまで3週間。激しく動くと出てしまう)
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チップが体内で移動して読み取れない(定着まで3か月かかる)
獣医師の虐待通報を義務化:1年内に施行
これまで獣医師の虐待通報は「努力義務」でした。この改正で「義務」に引き上げられ、遅滞なく行わなければならなくなります。
都道府県の動物愛護管理センターの役割が明確に:1年内施行
これまで各都道府県にあった動物の愛護および管理のための施設が「動物愛護管理センター」としての機能を果たすものに位置づけられます。動物愛護センターは以下の業務を行います。
- 動物取扱業の登録・届出・監督に関すること
- 動物の飼養・保管する者に指導・助言・勧告・命令・報告の徴収および立入検査に関すること
- 特定動物の飼養または保管の許可および監督に関すること
- 犬猫の引取り、譲渡などに関すること
- 動物の愛護および管理に関する広報・啓発活動
- その他動物の愛護および適正飼養のため必要な業務
殺処分には国際的動向を考慮する:1年内に施行
今回の改正に「環境大臣は動物を殺す場合の方法について必要な事項を定めるに当たっては、国際的動向に十分配慮するよう努めなければならないこと」が加えられます。
欧米での犬猫の殺処分は獣医師による安楽死となっています。これにより、日本での行政による健康な犬猫の炭酸ガスでの大量殺処分はなくなるといえるでしょう。
資料:諸外国における犬猫殺処分をめぐる状況 ―イギリス、ドイツ、アメリカ― (国立国会図書館)
議員立法で動物愛護法が改正された意義
今回の動物愛護法改正は議員立法によって審議され、可決されました。じつはこれ、とても大きな意義が…。
日本の国会では行政府である内閣によって提出された議案が優先され、議員の発議によって提案される議員立法はほとんど審議されることがなく廃案または継続審議になります。議員立法の成立には議員の取り組み方が大きく関係します。
シンポジウムでは、杉本さんや改正PTメンバーのご苦労がうかがえるエピソードが多々出てきました。そして度々「多くの人々の声や署名が原動力になりました。ありがとうございます」とおっしゃっていました。本当に今回の改正は、私たち一般飼い主や保護活動をされている人の声、それに共感してくれた国会議員、両者をつないてくれた杉本さん率いるEvaやその他の動物愛護団体、TOKYO ZEROや浅田美代子さん、世良公則さんなど著名人の方々で成し得たことなんだと実感しました。
最後に杉本さんは、「動物問題は省庁をまたがってさまざまなジャンルで山積しています。環境省下の問題だけではなく、すべての動物たちの福祉に配慮した社会が実現できるように、みなさんと力を合わせてあきらめずに取り組んでいきたい。国会議員の先生方、今後ももっと時間を割いていただけるとありがたいです(笑)。本当にありがとうございました」と締めくくりました。
この改正案から、次は環境省が具体的な省令や数値案などを提示します。モフマガbyペットホームウェブでは、今後も動物愛護法改正を追いかけます!
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